人間関係でなくても角は立つ

フォントワークスの「セザンヌ」シリーズの文字を虫眼鏡で拡大してみると、わずかに横画や縦画の先端が太りぎみになっているのがわかります。これは、アウトラインの作り方をミスったわけではなく、意図的に画線の先端部分を強調しているのです。これを『角立て(かどたて)』と言います。

人間関係でなくても角は立つ

角立てを行う目的はさまざま。たとえば、直線の固さを和らげたいときに線の先端部分にアクセントを付けることがあります。また、明朝体では、横画うちこみなどの先端部分に角立てを施して、うろこ(終筆部)などのエレメントとの調和を図っている書体も見受けられます。この場合の角立ては、文字全体の力のバランスを保ちながらエレメント同士のバランスを取るための手法と考えることができます。

また、アナログの写植文字のデザインでは、ゴシック系の書体のシャープな文字の形状を保つために角立てを行うことがあります。これは、レンズを通して文字を拡大縮小したときに、エレメントの末端部分が丸みを帯びて再現されてしまう傾向があるためです。あらかじめ角を立てておくことで、これをある程度補正しようと試みているわけです。同様の効果を狙って、画線の結合部分に特殊な切れ込みを入れている書体もあります。

それでは、デジタルフォントの場合はどうでしょう? アウトラインの定義が精密にレンダリングされるのがデジタルフォントの特長です。画線の先端のコーナー部分もシャープな角度でそのまま再現されるわけですから、ゴシック系の文字で角立てによる補正を行う必要があるかどうかは疑問です。もっとも、印画紙に出力した文字を撮影してフィルムに起こす場合は多少効果があるかもしれませんが…。オリジナルの写植版では角立てが施されていても、PS版では省略されているという書体もあります。これは、PSの書体には角立てによる補正が不要と判断した結果かもしれません。角立てを行うと、ポイントの数が増え、データが大きくなるのは必然。それにも関わらず、「セザンヌ」シリーズのように初めからPS用に開発されているゴシック書体で敢えて角立てを行うのは、視覚的な美しさを追求するデザインの要素として角立てをとらえているためです。

角が立ってもギクシャクせずに美しく納まるのは、書体の世界だけかもしれませんね。