楷書体グレコファミリー誕生の背景

楷書体グレコファミリーは、中華人民共和国の標準書体の1つとして承認されているサイノタイプ楷をベースに、フォントワークスとサイノタイプ社が共同開発した書体です。サイノタイプ楷の歴史は1930年代の上海に遡ります。当時、上海世界書局に勤めていた二人の人物が描いていた夢、広範囲な印刷に適した質の高い楷書体を創り上げるという構想がサイノタイプ楷誕生の発端となりました。一人は唐朝の欧陽詢流および柳公權流の書道家である陳履担氏。もう一人は、金属活版の熟練製作者である周煥斌氏です。

デザインを担当した陳氏は1938年までに7,000文字を完成しましたが、その後まもなく他界。後を受け継いだ周氏がそれから4年の歳月をかけて6段階のポイントサイズの活字を彫り上げました。

1943年、周氏はサイノタイプ楷と名付けたこの活字書体の製造を行うため、数人の友人と華文銅模鋳字廠(後に上海字模二廠と改名)を設立します。その後、同社の熟練工である銭煥慶氏が彫版印刷機にかけるための50ミリ平方のテンプレートを開発した際に、文字セット全体のバランスを調整。独自の優雅なスタイルを維持しながらリファインされた文字が写植文字盤にも移植され、サイノタイプ楷が金属活字と手動写植機の文字盤の両方の形態で中国全土に広く普及することになります。さらに、1980年代のデジタルタイプ(レーザータイプセッティング)の登場に合わせて上海印刷研究所の張家馨氏がデザインに修正を加え、サイノタイプ楷はさらに完成度の高い書体となりました。

1991年、活字のポストスクリプト化に詳しい米国在住の王克倹氏と華文銅模鋳字廠の所有者である陳桂安氏が常州華文印刷新技術有限公司(サイノタイプ社)を設立し、ポストスクリプト書体の開発に乗り出します。以来同社は、高品位なポストスクリプト中国語書体を30書体以上リリース。1994年8月には、ポストスクリプト版サイノタイプ楷を含む九書体が国内標準書体として、中華人民共和国新聞出版署と国家語言文字工作委員会、全国印刷字体工作委員会によって承認されています。

1993年に中国の常州で交わされた王克倹氏とフォントワークスとの間の合意に基づき、サイノタイプ楷をベースにフォントワークスグレコファミリーの共同開発が始まりました。サイノタイプ側は上海印刷研究所の張家馨氏が漢字部分の開発を担当し、フォントワークス側はかな文字の制作(佐藤俊泰氏デザイン)と製品化を担当。完成したミディアムウエイトの書体が1994年11月にリリースされました。さらに、その後に完成したボールドとデミボールドを加えた3ウエイトが現在のグレコファミリーです。陳氏の書道の才能と周氏の職人技、そしてフォントワークスの技術とかな文字のデザインが60年の歳月を隔てて融合した優美な書体、グレコファミリー。ポストスクリプトと写植で現在利用できるあらゆる楷書体の中で最高峰の書体、それがグレコファミリーであるとフォントワークスは自負しています。