【セイコータイムクリエーション】みんなが平等に見える「教室の時計」。視認性を追求したオリジナルUDフォント

Interview

セイコータイムクリエーション株式会社様は、掛時計、置時計、目ざまし時計の開発、製造、販売、アフターサービスまでを一貫して行うクロック事業と、設備時計、スポーツ計時計測機器、デジタルサイネージ、大型表示盤、野球場スコアボード、自動化装置の開発、製造、販売、アフターサービスを行うタイムシステム・FA事業を展開、また、各種スポーツ大会の計時計測支援活動も行っている時計メーカー様です。
2021年4月1日、セイコークロック株式会社様とセイコータイムシステム株式会社様が合併・事業統合され、「セイコータイムクリエーション株式会社」として新たな一歩を歩まれ始めました。

そんなセイコータイムクリエーション株式会社様の代表的な商品ともいえる「教室の時計」にはフォントワークスと共同開発しました、視認性を追求した、クロック専用のUDフォント(ユニバーサルデザインフォント)をご使用いただいております。

引用:教室の時計|オフィスタイプ|セイコータイムクリエーション

今回は「教室の時計」の制作に携わられた、セイコータイムクリエーション株式会社クロック事業本部で企画を担当された神谷様、デザインを担当された吉田様、商品企画部の南日様、そして広報の齊藤様に弊社青山本社まで足をお運びいただき、「教室の時計」でUDフォントを採用された背景や、「時計とフォントの関係性」についてお話を伺いました。

右:セイコータイムクリエーション株式会社 吉田様 左:フォントワークス株式会社 安藤

みんなが平等に見える、細部までこだわった「教室の時計」

―― 「教室の時計」について、まずお伺いできればと思います。
御社の時計は学校や役所といった公共の場所を中心に、古くから様々な場所で使用されていると思うのですが、どういった経緯で弊社の「UDフォント」をご選択いただき「教室の時計」が生まれたのか、背景を教えてください。


神谷さん:「教室の時計」の企画というのは、発売の1年ほど前に思いつきから始まった企画なんです(笑)。私には小学生と中学生の娘がいて、よく学校公開(授業参観)に行くのですが、昔ながらのオフィス時計がドンとかかっている教室もあれば、そうでない時計がかかっていたりと様々見てきました。それを見て、子どもたちに教育を授ける環境にあるものなので、もう少しみんな平等に見やすいものがあったらいいなと。

実際に小学校で古くから使用されている時計

神谷さん:当社のカタログをもう一度見返してみると、学校に置くことだけを意図した商品ではなかったこともあり、デザイン的に曖昧になっていたという部分がありました。そこで今回は「教室にかける時計」というところにフォーカスして、「子どもたちにとって何が重要なのか」「見た目」「らしさ」「機能」「安全性(落としてもケガしないようにアクリルで作られている)」など、「どうしたら学生にとって良い時計になるか」を、吉田をはじめとしたデザインチームでディスカッションし制作しました。

あと、小学校側の背景として、最近チャイムが鳴る学校が減ってきています。その理由のひとつに「子供が時間を見て、自主的に行動するようになってほしい」という想いがあるそうです。チャイムを聞いて、〇〇やりなさいと言われて行動するのではなく、あくまで子どもたち自身で時計を見て時間を確認し、何分前までに何をしないといけないかを自主的に考える。

そのような学校の事情もあり、時計をかける位置なんかも変わってきているみたいです。我々の時代は黒板の横にあったと思うのですが、今の主流は廊下側に設置されているようでして。先ほど話したチャイムの話と同様、子どもからすると時計が目の前にあると、「早く授業終わんないかな~」なんて絶えず時計を見てしまいますもんね。

なので、今回の「教室の時計」は廊下側にかけることを前提で、「角度がつくと見えづらくないか」「どこからでも同じように見える」とか、そういった視点を大切にしていました。そんなディスカッションを行っている頃、御社の書体デザイナー、藤田重信さんが出演された「プロフェッショナル」をたまたま見て、「あ~そうだな」とビビッときて(笑)。

――ご視聴いただいたのですね、ありがとうございます!
今回の構想が頭の中に浮かんでから、実際に商品としてリリースされるまで、どれくらいかかりましたか?


神谷さん:1年くらいですかね。初期段階で学校の現状がどうなっているかを少し深堀りしたところがあるのと、御社とのお取り組みがいちからということもあり、他の案件よりは少し時間がかかっていますね。

「遠くから見るもの」がキーワード

――デザイナー目線で、開発していく中でこの辺りが楽しかったなというところがあればお聞かせください。

吉田さん:大きなコンセプトを聞き、そこから一つずつ問題解決していく過程が非常に楽しかったですね。開発当時、私の子どもも小学生でして、学校公開の機にせっかくだから調査に行ってみようかなと。そうしたら、本当に廊下側に時計がかかっていたんです!

一番後ろの子も見るし、一番前の子も見るわけですから、時計をセンターにして割り振り45度から見た際にも、必ず目盛りが見えなきゃいけないなと改めて思いました。

吉田さん:古い時計を見てもらうと分かると思うのですが、横から見ると文字板が少し奥まっているので、目盛りが隠れちゃう。そうすると時刻が読み取れません。今回の「教室の時計」はその辺りも工夫しておりまして、針と同じ高さのところに目盛りを置き、さらに2段階の階段状にしています。そうすることによって、横から見ても目盛りがちゃんと見えるし、角度をつけて見ても、指している位置がずれて見えないんです。

――子どもたちのためのたくさんのこだわりが詰まっているんですね!フォントについてはいかがでしょうか?

吉田さん:フォントについては、「遠くから見るもの」というのがキーワードだなと思いまして、サイズをこだわりました。

少し話がずれるのですが、小学生の頃、道路に信号機が落ちているのを見たことがあるんです。多分、付け替えのタイミングだったと思うのですが。
信号機の中に入っている電球ってそばで見ると、とても大きいんですよね。普段丁度よく見えるものが、こんなにも大きいんだと思ったのが、今でも印象に残っています。それ以降、「距離」と「見える大きさ」の関係にはすごくこだわりを持つようになりました。

吉田さん:この時計も、「なんでこんなに不格好で、大きな数字をいれるの?」なんて言われたりもしたのですが、教室の離れたところから見たときに丁度よく…実物を見ないままフリーハンドで書いたような、アイコニックな「THE時計」のたたずまいにしたかったんです。

吉田さん:それと、この数字部分。ホットスタンプといいまして、熱で黒いシートを圧着しています。普段弊社で使っている物は光の反射が結構あるのですが、光が反射するということは見えづらくなるということですよね。それを抑えるためにツヤを消した特注の物を使いました。なので、どの角度から見ても黒にハイライトが入らないようになっております。

あと、時計は「針と目盛りと数字」が命なので、極力ケースの方に目がいかないようにしました。そして皆さんが気になる秒針だけを目立たせています。御社のフォントの太さと目盛りの調和という点も、心がけましたね。シンプルだからこそ、すごく難しかったです。本当に必要なところを残し、それ以外をそぎ落として作っていったので、そういった意味でも御社のフォントの識別性とか視認性とすごくシンクロしていると思います。

――それは嬉しいです!
ちなみに、吉田さんにご質問です。御社にも伝統ある数字のデザインがある中で、それとUDフォントを融合させていくというコンセプトを聞いた際、どのように思われましたか?


吉田さん:(神谷さんに)ひとこと「良いね」って言いましたね。

神谷さん:我々の数字も半世紀近くも前の先人たちが試行錯誤を重ねてデザインしたものなので、そこに敬意を示しつつ、御社の持っているUDフォントのノウハウを融合してさらに進化させたいと考えました。
この辺りは特に問題なく、すんなり進められました。

校長先生からの「やさしい」という言葉

――社外からの評判はいかがでしょうか?

神谷さん:(今回ご持参していただいた、古い)時計を小学校から借りる際、替わりに「教室の時計」を置いてきたんですよ。そうしたら校長先生がすごく褒めていましたね!実際に触っていただき、非常に見やすいとおっしゃっていました。さすがに、「早速全教室導入します!」とまではいかなかったのですが(笑)。

でも本当に好評で、「やさしい時計だね」と。今まで教室にかかっていた古いタイプの時計は学校専用に作られたものではないので、銀行とか役所とか郵便局とかにありそうな威厳のある風格があったのですが、吉田がデザインした方は非常に優しくて、子どもたちに対してもフレンドリーという意味なのかなって思います。

奇をてらわない「信頼性」のある時計

――子どもたちのために細部までこだわって開発された中で、現場をよく知る校長先生からの「やさしい」というフィードバックはとても嬉しいですね!今度は御社のことを少し深掘りさせてください。セイコーさんの時計の強みはどこにあると思われていますか?

吉田さん:アンケート結果にも出ているのですが、「信頼性」でしょうか。やっぱりそこが根強いと思います。

だからこそ、それを裏切ってはいけないと感じておりまして、私のモットーは「奇をてらわない」「当たり前を馬鹿にしない」なんです。
でも、当たり前すぎると「つまらない」となってしまうので、当たり前の少し横くらいの…桑田佳祐さんとかMr.Childrenの歌詞のような「フレーズにはまりすぎない、ちょっと字余り」みたいな(笑)。その塩梅がまた難しくて、なかなかたどり着けません。

――吉田さんにとって時計作りのゴールはどこに設定していますか?

吉田さん:ゴールを設定するのではなく、終わり方を考えないといけないのかもしれないですね。デザインとか建築とか、そういうのって終わりがないじゃないですか。やろうと思えばずっとできる、例えばサグラダファミリアみたいにね(笑)。でもいつかは死んじゃうので、終わり方を決めるというのは考えたことがありますね。

――モノづくりの世界は奥が深いですね!「セイコーらしさ」はどのようにお考えですか?

吉田さん:個人的な想いみたいなのはあるのですが、社員全員で共有している「セイコーらしさ5か条」みたいなものはないんですよね。ないんですけど、基本「シンプル」なんじゃないかと思います。

これは私見ですが、すごくシンプルで芯の強さがモノからあふれ出ているイメージです。あとは清潔感だったりクリアな印象があって。弊社の「シリーズ C3」という時計に、セイコーらしさが凝縮されていると思います。

シリーズ C3

神谷さん:当社のタグラインの「時代とハートを動かす」という言葉にも、ギュッと凝縮されていますよね。

ピンチはチャンス。テレワークを支える時計

――学校、病院、空港など…大勢の人がいる公共施設やインフラ施設に置かれるものという認識があるのですが、このような場所に大勢の人が集まるのは、今のコロナ時代だと少し難しくなりつつあると思います。そういった中で、御社の時計事業における今後の展望をお聞かせください。

神谷さん:ピンチはチャンスじゃないですけど、自宅でのテレワークなどをサポートできるような、時間管理ができる新商品というのを取り組み始めていて、もうすぐ目が出るかなっていうところまで来ております。

――インテリアクロックも今後のベンチマークなのでしょうか?

神谷さん:昨今、非常に人気ですよね。ホームセンターでも非常におしゃれな時計が出てきていますけど、基本的に我々の時計は質実剛健といいますか、シンプルで美しく、信頼性があるという点を目標に作っています。
そこを機能的にキープしつつも、もう少しインテリアらしさを取り入れた商材ということでチャレンジしていきたいです。


インタビューを進めていく中で、吉田さんに長年デザイナーとして携われてきた中で感じた、時計のデザインにおけるフォントの持つ役割や大切さをお聞きしました。

吉田さん:時計においては「針・数字・目盛り」がすべての根幹なので。フォントは非常に重要だと思いますね。時計をとりまく佇まいを決める、「重要なファクター」だと思っています。
書体の形状もそうですけど、サイズ感や線の太さ、繊細なのか大胆なのかとか、空気感っていうのはすごく重要だなと思っています。


また、「セイコーらしさ」についてお話いただいた際、「基本シンプルだ」とお話いただいた吉田さん。ご本人のデザインの指向性もやはり「シンプルイズベスト」なんだそうです。例として挙げてくださったのが、ジャスパー・モリソン(Jasper Morrison)さんというロンドンのプロダクトデザイナーのお話です。

吉田さん:思い返すとシンプルなものがやっぱり好きかな、と。
ジャスパー・モリソンの「グローボール」とか好きです。本当に単純な丸いランプなのですが、若干縦につぶしているんですよね。シンプルだけど少しだけ崩している感じが、私の琴線にふれているのかな。
安心感はあるけど唯一無二なところに惹かれますね。


フォントワークス のUDフォントの1番の特徴は、読みやすさ・見やすさの指標となる[可読性][視認性][判別性]の高さ。そして、フォントのデザインの美しさである[美感性]を兼ね備えているという点だと考えております。「全ての人が読みやすいフォント」という考え方のもと、制作されたこのフォントを、是非多くの人に触れていただければと思います。

みなさまの今後の活動でも、フォントメーカーとしてお役に立てることがあれば幸いです。

取材日:2021年4月22日





セイコータイムクリエーション株式会社
掛時計、置時計、目ざまし時計の開発、製造、販売、アフターサービスまでを一貫して行うクロック事業と、設備時計、スポーツ計時計測機器、デジタルサイネージ、大型表示盤、野球場スコアボード、自動化装置の開発、製造、販売、アフターサービスを行うタイムシステム・FA事業を展開。また、各種スポーツ大会の計時計測支援活動も行っている。
https://www.seiko-stc.co.jp/


この記事を書いた人

いわい

マーケティングを担当しています。フォントワークス1年生🌷

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