【フォントデザイナー企画】フォント「桔梗」の魅力をデザイナー Kokin氏に伺いました

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古今江戸」「古今髭」「ぶどう」に続く、フォントデザイナー Kokin氏の最新フォント「桔梗」。

特長のひとつでもあるウエイトの細さには、エレメントの大胆なデザインから、シンプルさの中にも親しみやすさや、心地よいリズムが感じられます。SNSで「エモみのある書体だ!」とつぶやかれたのも、LETSでの提供開始日でした。

今回は、フォント「桔梗」のデザインコンセプトや、制作のきっかけ、誕生秘話について、生みの親であるKokin氏に伺いました。

「桔梗」デザインの特徴とは

「桔梗」は、繊細かつモダンをテーマに作成した書体です。

漢字の随所に、大胆なデザイン処理をしているので、文字組みによって目を引く効果があると思います。 ポイントを大きくして使うと、思い切ったデザインが現れるような。特に漢字は顕著ですね。

また、小さいサイズで、ある程度の長さの文章になると、その部分が文章の表情に溶け込み、緩和された印象になってくるのではないかなと感じています。

この書体は、国宝「燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)」(六曲一双、根津美術館蔵)で有名な、尾形光琳の絵の表現からインスパイアされたものです。その時の印象を“書体で表現したい”と思ったのが制作のキッカケでした。

尾形光琳は琳派の中でも、よりデザイン的で、繊細で緊張感と強さを持つ表現をする作家さんだと感じ、その点をエレメントと骨格で表現できないかと思って作ったものです。

そういったこともあり、当初は「光琳」という名で作成していたのですが、書体の印象からイメージするものとして、最終的には、私の好きな花の名前から選んで「桔梗」と名付けることにしました。

▲ 書体制作前のラフスケッチ
▲ ラフスケッチと提供フォント「桔梗A」と「桔梗B」

かなデザインによる見え方のちがい

「タイプA」は、シンプルなデザインと大きめの仮名で、明快さを出し、もう一方のデザインである「タイプB」が叙情的な表情を持つのに対して、叙事的な表情を持つデザインとなります。

「タイプB」は、より叙情的で、趣きが出る表情になります。仮名が小さい分、リード文から数行の本文も組めるくらいの使い方も似合うのではないでしょうか。

漢字と合わせた使い方だと、「タイプA」の方がより漢字のデザイン的な特徴を引き出せるのかなと思っています。

本来の字形よりもデザインを優先

“思い切ったデザイン”

これも特徴のひとつです。「木」や「糸」など、部首の中でも頻出するような部分に施す...といった具合で、なるべく色々なところに登場するように作成しています。

例えば「木」の右払いと「糸」の最終画は異なるストロークですが、同じエレメントでデザインし、書体デザインの印象を優先させることで「桔梗」というフォントを作っていきました。

その他にも、同じストロークを異なるエレメントにしたり、
逆に、異なるストロークであっても同じエレメントにしている部分が随所にあります。

また、本来は交差しない2画を交差させて、払いの伸びやかさを強調したりと、元の字形から離れた処理をしていますが、その文字らしく見えている点と、組んだ時の表情の広がり(揺れによる柔らかさ)をデザインのポイントにしました。漢字本来の点画を離れて、デザイン優先で構成する場合のバランス感(部首の登場頻度やデザインの程度)が難しかったです。

フォントデザイナーになるきっかけ

文字デザインに興味を持ったきっかけは、父が役場の広報紙を作っていた頃に見た、手書きで書いたガリ版プリントです。小学校のまだ低学年の頃に、手書きなのにきれいに整った文字が並んでいるのに驚き、その時の印象を今も持ち続けています。

大学進学時には、やはり美術系に行って文字デザインをしたいと思っていましたが、公務員の父から許しが出ず、渋々の法学部に入学、デザインをしたいと写植・版下のアルバイトから始めた次第です。美系に進まなかったため、人のつながりや情報がなく、文字デザインをするまでに、写植・版下など下請けの会社を数社変わりながら、手探りの状態でした。

その頃、書体デザイナーの実際を見てみたいと強く思い、おこがましくも、桑山 弥三郎氏や奥泉 元晟氏を訪ねたことがあります。急な申し入れでしたが、快く実際の仕事を見せてくださり、桑山さんからは、原字用の専用方眼紙を頂き、奥泉さんからは溝引きで文字を描いて見せていただきました。

その時の思い出は、今の書体制作へのエネルギーとなっています。

その後、一度、書体制作の現場で勉強しようと思い、タイプバンクの門を叩き、アナログからデジタルフォントの過渡期に社員として勉強させていただきました。退社後は、デザイン会社の机を間借りしながら独立(フリーランス)し、日々の仕事をしながら、自分のオリジナル書体のスケッチや原字を書き溜めていました。しばらくたった頃に、自分のポートフォリオを持って、当時フォントデザインで世界中に影響を与えていたエミグレ(https://www.emigre.com)を訪ねたこともあります。

ロゴ制作や画家としての活動を通して

▲ Kokin氏 ホームページより http://www.kokin.info

小さい無名なロゴの仕事をかき集めながら、がむしゃらに仕事をしていた独立当初から今までには、多種多様なクライアントやデザインコンセプトに沿ってデザインをする機会を得ましたが、その都度、形になっていない言葉(オーダー)以上に、私なりに解釈を更に深め、理由に基づいた表現(デザイン)案を心がけた積み重ねが今につながっていると思います。その点では、作家としての洞察と表現が役立っていると感じています。

絵を始めるようになったきっかけは、独立後、文字デザインと平行して描きためていたイラストのようなものを、画家の今井 俊満氏に見せる機会があり、その際に「君は絵を描いた方がいい」と言われ、そのまま少しずつ描いては展示・発表を続けた結果、文字デザインと絵の両方をする現在のスタイルになりました。

書体制作は長期にわたり全文字を作りますので、自分自身がこのデザインで最後までいけると思える、制作への熱を最後まで持ち続けられるものを今後も作っていきたいですね。

▲ 97年 パリで個展をされた際の野外デモンストレーション

まだ生まれたてですので、「桔梗」のステージが海なのか山なのかまだ判断がつきませんが、きっとユーザーの皆さんが素敵なフィールドを見つけてくれると思います。
表現される文字の表情と、文面、他要素がどのように絡まっていくのか楽しみです!


下記より、フォントの試し打ちが可能です

Kokin氏 プロフィール

Kokin氏

書体デザイナー
1963年島根県生まれ。獨協大学法学部中退。91年タイプバンク入社。93年デザイナーとして独立後、絵描きとして創作活動も開始。95年古今江戸-EB、97年古今髭-EB、2004年ぶどう-Lをフォントワークスよりリリース。2006-2014年 国際タイポグラフィ協会 (A.Typ.I.) 会員。2010年A.Typ.I. Dublinにて「日中韓の漢字とデザイン」についてプレゼンテーション。2012年A.Typ.I. HongKongにて「白・黒と江戸文字」についてプレゼンテーション時、X-0208全文字で描いた東北大震災への追悼作品をA.Typ.I.に寄贈。

主なロゴデザイン
ザ・プレミアム・モルツ、アセロラドリンク、なっちゃん!、鏡月、みずほ銀行、日産自動車、TOKYO STATION CITY、Odakyu、Rhythm、Orangina、韓国パラダイスグループ、 東大門デザイン公園など。

主な絵画収蔵先
シャトーレストラン ジョエル・ロブション、ハイアット・リージェンシー、ザ・リッツ・カールトン、帝国ホテルなど。

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