フォントワークスは、ユニバーサルデザイン(UD)フォントとして、 2015年2月に「フォントワークスUDフォント」シリーズをリリースしました。 “ヨムモジ、ミルモジ、ツタエルモジ”を「モジコンセプト」に、 より読みやすく、より見やすく、より伝えやすい文字であることを目的としてデザインされた書体です。 フォントワークスは、これらの書体に対する客観的な評価をエビデンス(根拠)として示すため、 九州大学と行っている共同研究「UDフォントの評価に関する研究」の中で比較実験を実施いたしました。 本記事では、フォントワークスUDフォントに対する [可読性][視認性][判別性]の実験内容及び評価結果を報告いたします。
ユニバーサルデザインフォントとは?
UDフォントとは、[可読性][視認性][判別性]に優れ、年齢・性別に関係なく、誰もが読みやすく、見やすいデザインが施された書体として各メーカーからリリースされています。 通常、書体におけるタイプフェース(デザイン)は、多くの人が“その文字を正しく認識できること”を条件とし制作されており、当社を含めほとんどのメーカーの大多数の書体は、その条件にさまざまなデザイン的特長を加え制作されています。つまり市場で販売されている一般的な書体にも、ある程度のUDの要素が備えられているとも言えます。
そこでフォントワークスは、自社ブランドのUDフォントを開発するにあたって、次のコンセプトで制作しました。まず、フォントワークスUDフォントは、[可読性][視認性][判別性]が“より高い”ものであること、そしてそれぞれに性質を特化して高めた書体であることと定義しました。 そのため、当社フォントの中からユーザー使用頻度が高く、特にUDの性質を備えていると考えられる書体を、角ゴシック体・丸ゴシック体・明朝体の中からそれぞれ選択し、その書体に対して本来の美感性を損なうことなく、UDの性質を特化して高めるようにデザインを施しました。
角ゴシック体(UD角ゴ_ラージ)と丸ゴシック体(UD丸ゴ_ラージ)は見出し用、明朝体(UD明朝)は本文用のUDフォントとして、それぞれの使用用途を明確にしています。
※ 文中に出てくるFW-UDゴシック=UD角ゴ_ラージ、FW-UD丸ゴシック=UD丸ゴ_ラージ、 FW-UD明朝=UD明朝を指します。
実験について
- フォントワークスUDフォントに対して、自社および他メーカーの一般的なフォントおよびUDフォントとの比較実験を実施し、UDの性質である[可読性][視認性][判別性]に対する客観的な評価を求めることを目的としました。
- 比較実験は、九州大学 芸術工学研究院のコンテンツ・クリエーティブデザイン部門およびデザイン人間科学部門の下記教員との共同研究の一環として行いました。
コンテンツ・クリエーティブデザイン部門 | 佐藤優教授、伊原久裕教授、藤紀里子助教 デザイン人間科学部門 | 須長正治准教授 - 今回の実験では、1書体に対する絶対評価を求めるのではなく、市場に販売されている複数の同種の書体に対し、UDのそれぞれの性質の観点からの相対的な比較実験による評価を行いました。対象となる全ての書体を採点し、最終的にフォントワークスUDフォントに対する評価を算出する方式を採用しています。
実験内容と評価方法について
- 被験者として若年者/高齢者/デザイン関連業務経験者の97名
- 実験は、角ゴシック体と丸ゴシック体は見出し、明朝体は本文での評価を求める実験としています。
- 一般的に入手可能なUDフォントを含む角ゴシック体・丸ゴシック体・明朝体のそれぞれ10書体を見出し用、本文用の2種類に分類し、任意の組み合わせで表示させ採点します。その結果に対する基準値を算出し、フォント単体および総合的な評価を行います。
実験環境
UDフォントの比較実験に伴う、実験装置/被験者/使用フォントについての情報は、以下のとおりです。
A. 実験装置
表示装置 | 4Kディスプレイ ▼24型:Dell:23.8 inch UP2414Q (フルHDの4倍、約829万画素の解像度をもつ4K(水平3,840×垂直2,160画素)液晶パネルと、Premier Color テクノロジーを搭載し、最大表示色10億7,400万色の高精細かつ高品位な画質。12ビット内部処理で、色域は Adobe RGB 99%、sRGB 100%で 、色彩豊かに映像を表示) ▼65型:Sony:65 inch KD-65X9200A (フルHDの4倍、約829万画素の解像度をもつ4K(水平3,840×垂直2,160画素)液晶パネルと、ソニーが新たに開発した超解像度高画質回路搭載により、大画面でありながら高精細かつ高品位な画質。色域は、トリルミナス(R)ディスプレイの広色域技術にて、 Adobe RGB 、sRGBに準拠し、色彩豊かに映像を表示) |
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観察距離 | 60cm または 5m |
観察条件 | 暗室 |
フォントサイズ | 18pt から 120pt |
文字種 | 漢字・かな・英数字 |
B. 被験者
若年者 | 30名 男性14名 女性16名 (平均年齢 21.9歳 ±1.62歳) |
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高齢者 | 36名 男性20名 女性16名 (平均年齢 67.9歳 ±3.18歳) |
デザイン関連業務経験者 | 31名 男性14名 女性17名 (平均年齢43.2歳 ±12.04歳) |
C. 実験に使用したフォント
ゴシック体 | FW-UDゴシック(フォントワークスUDゴシック) A社-UDゴシック/B社-UDゴシック/C社-UDゴシック/D社-UDゴシック/E社-UDゴシック/E社-ゴシック/F社-UDゴシック/F社-ゴシック/K社-ゴシック |
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丸ゴシック体 | FW-UD丸ゴシック(フォントワークスUD丸ゴシック) A社-UD丸ゴシック/B社-UD丸ゴシック/C社-UD丸ゴシック/D社-UD丸ゴシック/E社-UD丸ゴシック/E社-丸ゴシック/F社-UD丸ゴシック/G社-丸ゴシック/H社-丸ゴシック |
明朝体 | FW-UD明朝(フォントワークスUD明朝) A社-UD明朝/A社-明朝/B社-UD明朝/C社-UD明朝/D社-UD明朝/E社-明朝/F社-UD明朝/I社-明朝/K社-明朝 |
D. 実験方法
可読性 | 一対比較法 (2つのうちどちらか優れている方を選択) |
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視認性 | 採点法 (見えやすさを0点から4点までの点数で採点) |
判別性 | 四者強制選択 (正しいと思うものを4つの中から強制的に1つだけ選択) |
実験1:可読性
測定方法 | 一対比較法 |
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被験者の課題 | 上下に配置された二つの文字列のうち、どちらか「読みやすい」方を選択 |
表示内容 | 角ゴシック …《見出し》としての文字種混合の文字列(1行) 丸ゴシック …《見出し》としての文字種混合の文字列(1行) 明朝 …………《本文》としての一段落の文字列(3行) |
評価の集計方法
一対比較法による選択数から比較相手毎に勝率を算出し、それを基にZ値を求め、その平均値をフォントの「読みやすさ」の心理尺度値に設定。これは、勝率が標準正規分布にしたがっていると仮定している。その心理尺度値を基に、全評価対象がやはり標準正規分布に近い分布になるように5段階で評価を行った。(単位:書体)
結果
5段階評価 | 角ゴシック体 | 丸ゴシック体 | 明朝体 |
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とても良い:5点 | 0 | 1 | 4 |
良い:4点 | 4 FW-UDゴシック含む |
3 FW-UD丸ゴシック含む |
2 FW明朝含む |
普通:3点 | 5 | 3 | 0 |
あまり良くない:2点 | 0 | 2 | 2 |
良くない:1点 | 1 | 1 | 2 |
可読性における全体的な評価結果
丸ゴシック体
各社オリジナリティの強いデザインのためか、他の2つに比べ使用頻度が低いためなのか、まばらに分布する結果となった。
角ゴシック体
突出して可読性の高いフォントはなく、実験対象フォントのほとんどがある程度の可読性をもつ書体との評価となった。
明朝体
使用頻度も高く、見出しにも本文にも使用されるケースの多い書体のため、評価がはっきりと分かれる結果となった。 フォントワークスUDフォントは角ゴシック体、丸ゴシック体、明朝体ともに「4点(良い)」と、可読性が高いと評価された。
実験2:視認性
測定方法 | 採点法 (0から4点の点数評価) |
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被験者の課題 | 1文字を異なるサイズで表示し、5段階で採点 |
採点基準 | 読みやすい:4点 読める:3点 読みにくいが読める:2点 かなり読みにくい:1点 全く読めない:0点 |
表示内容 | 角ゴシック … 65型ディスプレイに1文字 丸ゴシック … 65型ディスプレイに1文字 明朝 ………… 24型ディスプレイに1文字 |
評価の集計方法
「読みにくいが読める」で採点されるフォントサイズを「最少視認文字サイズ」として、そのフォントサイズを算出。一般的に使用されていると考えられるフォントを「1」として正規化した。
基準値「1」に設定したフォント
- K社-角ゴシック
- G社-丸ゴシック
- I社-明朝
結果
5段階評価 | 漢字 | カナ | 英数字 |
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FW-UDゴシック | 1.00 | 0.95 | 0.86 |
FW-UD丸ゴシック | 0.99 | 1.02 | 0.67 |
FW-UD明朝 | 0.95 | 0.96 | 0.80 |
視認性におけるFW-UDフォント
評価の結果の数値は、例えば 0.95という値は基準となるフォントが10ポイントのサイズで表示したものと比べ0.95倍である9.5ポイントで表示しても同等の視認性がえられることを意味する。 フォントワークスUDフォントは角ゴシック体、丸ゴシック体、明朝体ともに基準またはそれを下回る数字となっており、視認性が高いと評価された。
実験3:判別性
測定方法 | 四者強制選択 |
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被験者の課題 | はじめに2文字の対を見せ、その後表示される4つの類似した候補の中から、先に表示されたものと同じ文字の対を強制選択 |
表示内容 | 角ゴシック … − 丸ゴシック … − 明朝 ………… 24型ディスプレイ |
評価の集計方法
「正答率62.5%」を与える提示時間を、文字の正しい形状の「判別可能時間」として算出。一般的に使用されているフォントを「1」として、正規化した。
基準値「1」に設定したフォント
- I社-明朝
結果
5段階評価 | 漢字 | カナ | 英数字 |
---|---|---|---|
FW-UD明朝 | 0.90 | 0.90 | 0.82 |
視認性におけるFW-UDフォント
判別性は明朝体のみで実施。 誤読を防ぐために正しい字形であることの分かりやすさが評価となる。長い文章用の書体として、漢字・ひらがな・英数字のどれも基準となる1以下の値で、判別性が高いと評価された。
FW-UDフォントの比較実験における総評
九州大学との共同研究では、UDフォントの評価に関する研究を行っている。 その中で、今回の当社UDフォントと様々なメーカーからリリースされているUDフォント(一部一般的なフォントを含む)と比較し、UDフォントの性質として定義した[可読性][視認性][判別性]がどの程度優れているかを採点・評価した。
その結果、「フォントワークスUDフォント」は角ゴシック体、丸ゴシック体、明朝体ともに、基準として設定した数値を上回る結果を得ることができた。今回の実験で使用したフォントの中で、ひとつのメーカーがリリースしているフォントすべてが基準値を超えたのはフォントワークスだけである。 このことから、「フォントワークスUDフォント」は、[可読性][視認性][判別性]に優れていると言え、“安心して使えるUDフォント”であると結論付けた。
「フォントワークスUDフォント」は、2015年1月にリリースした角ゴシック体「UD角ゴ_ラージ」と丸ゴシック体「UD丸ゴ_ラージ」は見出し用、明朝体「UD明朝」は本文用といった使用用途を明確に提案している。2016年1月には、角ゴシック体と丸ゴシック体の長文での可読性向上を図った「UD角ゴ_スモール」「UD丸ゴ_スモール」をリリースすることで、UDフォントの用途の幅をさらに広げる。