【井関農機】トラクタ操作端末×UDフォント。現代的な佇まいのフォントがもたらした、ディスプレイの「進化」

Interview

井関農機株式会社様は、1926年、愛媛・松山の地で創業された農業機械の総合専業メーカーです。創業者・井関邦三郎氏の「農家を過酷な労働から解放したい」という理念の下、トラクタやコンバインなど農作物の生産に関わる製品やサービスを長らく展開し、近年では自動運転型のロボット農機を発売するなど、農業領域への更なる貢献を目指しています。

そんな井関農機様のトラクタ操作端末「IMLT®」(ISEKI Machine Link Terminal)に、弊社フォント「UD角ゴ_ラージ」を2018年にご採用頂きました。今回は、実際にフォントの選定や採用に関わられた井関農機の鈴木さんに「UD角ゴ_ラージ」をご採用頂いた理由、今後の事業展望などについて、オンラインにてお話を伺いました。

鈴木 悠太(すすき ゆうた)
1991年福井県生まれ。静岡文化芸術大学でプロダクトデザインを専攻。大学卒業後、新卒で井関農機株式会社に入社し、デザイン部に配属。現在は、主に農業機械のプロダクトデザイン、UIデザインを担当。

厳しい環境で使用される農業機械には「直線的でメリハリのある文字」を選択

―― 先ずは、御社デザイン部のご紹介をお願い致します。

鈴木さん:井関農機のデザイン部では、自社開発の製品に関わるデザイン全般を行っています。デザイン部の作業としては、製品に使用する文字やロゴデザインや製品のカラーリング、外観デザインを考えるときのスケッチであったり、3Dデータの作成、そして操作画面液晶系のUIデザインなどを主に行っています。特に分野を区切るわけではなく全員が満遍なく作業をこなしています。

また、新製品の開発の際にはデザイン担当者が数名アサインされて、そのメンバーで全てのデザインを行うというのが弊社のデザイン部の特長です。

トラクタT.Japan V TJV5 シリーズ

―― 御社デザイン部での文字(フォント)の扱いについて、もう少し詳しく教えてください。

鈴木さん:製品のイメージに合わせて、デザイナーが手作りしています。例えば、フォントサービス「LETS」の中から雰囲気が良いフォントを選択する。でも、農機向けにデザインを全く弄らなくてよいフォントはなかなか無いので、製品のイメージに合わせて常に微調整しています。

―― 「農機向けにデザインを全く弄らなくてよいフォントはなかなか無い」と頂きましたが、あらゆる天候、シチュエーションに適応する必要がある農機ならではの文字(フォント)の選択や方向性はあるのでしょうか?

鈴木さん:農機は厳しい環境で使用される製品ですので、直線的でメリハリのある文字に調整していくことが多いですね。文字自体を太くする、立体にする、側面に表示されるデカールは斜体にする、といった具合です。実際の使用環境を想定したり、我々デザイナーも農業現場でのフィールドワークを通じて着想を得たりするなどのプロセスを経て、製品に表示される文字ができ上がっていきます。

ミニ耕うん機 マイペット KCR7シリーズ

私も、直近ではミニ耕うん機「マイペット KCR7シリーズ」のデザインを担当したのですが、この製品のフォントは「Monotype LETS」に収録のEurostile®を採用しました。このEurostile®は、まさに直線的でメリハリのある欧文フォントで、ウエイトのバリエーションも豊富、個人的にも非常に好みですね。

自身の感性に響いた「UD角ゴ_ラージ」。農家のお客様にも伝わる、その心地よさ

―― さて、今改めて「IMLT®」で弊社のユニバーサルデザインフォント「UD角ゴ_ラージ」をご採用頂いたプロセスを振り返って頂けますでしょうか。

鈴木さん:当初トラクタ操作端末「IMLT®」の使い方として、運転時に画面を一瞬だけ確認することを想定していました。そのため、瞬時に情報を正しく伝えられるフォントが必要でした。また、7 インチの画面に可能な限り多くの情報を表示したいという必要性もでてきたため、次第にUD フォントの優位性が高まってきました。さらにトラクタ操作端末に表示するためには組み込みフォントでなくてはならないことが分かり、弊社ではトラクタ操作端末への組み込みフォント搭載が初めての経験でしたので、いろいろと手探りで探して、当時数社のフォントメーカーに相談させて頂きました。

―― 他のフォントメーカー様にもご相談されていた中で、弊社をご選択頂いた理由はどこにあるのでしょうか?

鈴木さん:フォントワークスに、プロジェクトライセンス(製品シリーズに対する買い切りライセンス)を用意していただいたことが大きかったですね。製品1台辺りいくらという形ではなく、製品シリーズ全体としてライセンスを包括的にご提案頂いたことが、弊社の予算の考え方に合致しました。また、当時の営業担当の方が柔軟にご対応いただき、他のフォントメーカーと比較してサイトの情報も一番充実していたりと、そういった細かな部分でも非常に安心感がありました。

トラクタ操作端末「ILMT®」操作画面

―― 御社のご希望に寄り添えたことは嬉しい限りです!ここからは、フォントのデザイン視点でお話を伺いたいと思います。先ずは、ユニバーサルデザイン(UD)のコンセプトを持ったフォント自体はご存知でしたでしょうか?

鈴木さん:ユニバーサルデザイン(UD)フォントの存在自体は認識していました。例えば、弊社の印刷物などで他社のUDフォントを実際に使用していました。

―― 既に他のフォントメーカー様のUDフォントを使用されていたなかで、弊社の「UD角ゴ_ラージ」をご採用頂いた理由はどこにあるのでしょうか?

鈴木さん:(トラクタ操作端末の)ディスプレイの解像度は、実はそこまで高精度なものではないんです。ディスプレイでは文字が荒れることが多い中で、「UD角ゴ_ラージ」は綺麗にはっきり見えるところが良いなと感じました。文字がしっかり読めるからこそ、ディスプレイに情報をより多く表示することができます。ふところが広く、曲線も美しいといった現代的な佇まいを感じさせながら、「分かりやすくて格好良い」という社内の評判が最後の決め手となりました。

―― UDフォントの基本的な特長である「可読性」「視認性」「判別性」の高さに加えて、弊社独自の観点である「美感性」を備えた「UD角ゴ_ラージ」の本質を見事に捉えて頂いています!

鈴木さん:フォントメーカー数社からフォントをお借りして、ディスプレイに表示して検証を行ったときに、「UD角ゴ_ラージ」を打ち込んで「これいい!」と(笑)。自身の感性に響きましたね。フォントそのものに心地よさと親しみやすさがあるため、お客様にもその心地よさは伝わっているだろうと感じています。

変化の大きい農業の世界を「骨太で息の長いデザイン」で支えたい!

―― 御社も2025年に創立100周年を迎えられますが、農業の世界も最近は特に大きく変貌を遂げているとお伺いしています。農業の世界で、いまどのような変化が起こっているのでしょうか?

鈴木さん:前提として、お客様が先ず変化していってますね。日本国内においては、農業従事者の高齢化が一層加速しています。それを背景に、農地の集約・大規模化がトレンドとなっており、そのプロセスで担い手農家と言われる若手や法人も多く参入してきています。

技術面に目を向けると、農業就業人口の減少に伴う作業の効率化・省力化でしょうか。具体的には、大規模経営ではAIやデータを活用したスマート農業が盛んになってきています。例えば、人が見回る代わりにドローンを飛ばして、撮影した画像の色から稲の生育具合をAIが判断して、水や肥料を調整する手法や、人工衛星の画像からお米の味の決め手であるタンパク質含有量を把握して、最適な収穫時期を決定する手法が普及レベルにきています。農業のやり方自体が大きく変わってきていることを感じます。

土壌センサ搭載型 可変施肥田植機

―― なるほど。因みに、御社のこの領域における最新の取り組みを教えてください。

鈴木さん:弊社では「可変施肥田植機」を販売しております。肥料を撒きながら田植えをするのが一般的になってきていますが、「可変施肥田植機」はリアルタイムセンシング技術で土壌の肥沃度合いを調べ、肥料を田んぼのどこにどれくらい撒くか最適化しながら田植えをします。そうすることで稲の倒伏を防ぎ、品質の安定したおいしいお米になります。

―― ご教示ありがとうございます。最後に、農業を取り巻く環境の変化に適応され、業界のフロントランナーとして走り続ける御社のデザイナーとして、鈴木さんの「矜持」をお聞かせください!

鈴木さん:農機は何十年と使い続けて下さるお客様も多くいらっしゃいますので、「骨太で息の長いデザイン」を常に心がけています。農機の世界でも新しい機能や操作が次々に出てきますが、特にUIデザインにおいては、見た目にしても、操作感にしても素直に入ってくるもの、本当に使いやすいと言っていただけるものを作り続けたい。これからも農業と農家のお客様に寄り添って、お客様の未来が広がるような製品を作り続けていきたいですね。

トラクタ T.Japan W TJW3 シリーズ

今回、取材を進めて行く中で、鈴木さんがプロダクトデザイナーを目指した「原点」をお伺いしました。

原体験として、福井の実家に田んぼがあり、農機具に触れる機会が身近に有ったとのこと。鈴木さんが幼い頃、農業に携わっていたおじいさんが田植えをしているときに「何となくワクワクしながら」田植機に触れていたことが、ずっと記憶に残っていたそうです。

幼少の頃は漫画を描くのが好きだった少年が、高校生の頃には工業製品のデザインに興味を抱き、静岡の大学でプロダクトデザインを専攻。就職活動では農機メーカーに絞って活動を続け、井関農機様に入社したという、大変興味深いお話を聞くことが出来ました。

「身近な人で農機メーカーに行った人は誰もいないし、誰もいないところで新しいことにチャレンジしたかった」(鈴木さん)

自身の感覚に忠実に従い、就職するまで一度も訪れたことのなかった四国の企業での挑戦を決めた鈴木さん。その飄々とした雰囲気とは裏腹に、確固たる芯を持ったプロダクトデザイナーであることを再認識させられました。

「新しい道具があると、生活がより便利になるし、豊かになるという価値の提供が出来る。新しいプロダクトをどんどん生み出し、それを使いやすくて魅力的なものに仕上げていくところで活躍していきたい」と語る鈴木さんの傍らに、今後も「UD角ゴ_ラージ」を中心とした弊社フォントが寄り添っていけたら、と心から願う取材となりました。

取材日:2021年4月8日





井関農機株式会社

1926年の創立以来、農業機械の総合専業メーカーとして農業の近代化に貢献。一貫して農業の効率化、省力化を追求し続け、その過程のなかで数々の農業機械を他に先駆けて開発し、市場に供給してきた。世界人口の増加と食料問題、また今日の食料自給率や国土保全の問題を常に考え、農業機械メーカーの社会的使命を果たすべく、今日も活動を続けている。
https://www.iseki.co.jp/


この記事を書いた人

安藤 貴文

2011年フォントワークス入社。営業部所属。大学時代に所属した新聞サークルで初めてデジタルフォントに触れ、その奥深さに目覚める。政治学、法学の観点から文字の歴史を捉える知見を得たいと、2021年4月より母校の大学の通信教育課程に進学。

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