カラマリ・インクは、広告ポスターや書籍、Webなどの幅広い媒体でデザインを手掛けられる会社です。また、出版レーベルとして「pub」を設立されています。
お仕事は主に、美術館や博物館など、アートやデザインに関わるポスターや図録のデザインなどが多く、LETSをご導入いただいてからは、筑紫書体を中心に使っていただいているとのことです。
今回は、デザイナーの尾中 俊介さま、田中 慶二さまに筑紫書体を使った作例をもとに、フォント選定の理由や、使用感をお話しいただきました。
目に馴染む書体
筑紫書体に興味を持ったのは、書籍 「d/sign(デザイン)」に使われている「筑紫明朝」を見たのが一番最初のきっかけだったと思います。
その後も、フォントワークスのカタログや様々な制作物を見て“使ってみたい”といった気持ちが強くなったのを覚えています。LETS導入後は、本当にいろんなところに筑紫書体を活用させてもらっています。
書籍「陸の果て、自己への配慮」は、弊社が初めて装幀から出版まで手掛けたものです。表紙周りには「筑紫Aオールド明朝」を、本文には「筑紫明朝」「筑紫Aオールド明朝」「筑紫ゴシック」を使って文字組みをしています。
筑紫書体の特性として四角四面の堅い印象が少なく、詰めて組んでも可読性が損なわれません。
漢字と仮名のバランス、設計や調整など、書体デザイナーの細やかな心遣いが伝わってくる書体だと思います。
和文で組むテキストは、版面の文字と余白のバランスが合わさってできるものだと思います。欧文だとそれぞれのフォントのベースラインが揃っているので整った印象を受けますが、和文は漢字とひらがな、カタカナが入り混じり、そこに欧文が混植されることもあるので、ばらついた印象を持った版面が生まれます。
画数の多い漢字などは、本文の版面のなかで際立ちます。それは星座の布置のようなもので、頁を開いたときに意味内容よりさきに、画面を知らず知らずのうちに印象づけています。和文組みは、文字組を絵のように捉える部分と可読性とをバランスよく表現する作業だと思っています。
その点でいえば、筑紫書体は、活版印刷でいうところの墨溜まりや、手書きの「書」のようなハネ・ハライといったアナログ的な要素を取り入れており、「読む」という行為と「見る」という行為に対しての配慮がなされていますから、版面を絵として見たときのメディウムとしても面白いですし、読書の際の目の馴致性も快適で素晴らしいと思います。
ノスタルジックでありながらも新しさを感じさせるフォルム
この「打瀬船」のポスターには「筑紫Bオールド明朝」を使用しているのですが、エッジが効いているのに機械的なところがないのが魅力です。
筑紫オールド明朝には、仮名デザインの異なる3種類がありますが、この書体は、それぞれの仮名にアクセントがあり、抑揚やアイキャッチなど変化をつけたいときに良いです。「うた」のようなコピーが入るときに「流れ」を感じさせることができる書体だと思っています。
今回、この打瀬船を撮られた写真家の方にお声がけいただいて制作したポスターですが、写真の雰囲気と筑紫書体のもつノスタルジックでありながらも新しさを感じさせるフォルムがうまくマッチして、観光ポスターとしては異色ですが、打瀬船のもつ悠然とした姿をアピールするものになったのではないでしょうか。
全体のバランスを考慮しつつ細部を作り込み
基本的には文字の加工をしたり、制作側の意図する詰め情報から変えることはほとんどないのですが、まれに“このテキストの並びだと、この字はもう少しこういった感じにしたいな”って手を加えることもあります。
例えば、この「徳川家の至宝」については、漢字に囲まれた「の」はデフォルトの「の」よりも左の空きを大きくした方が収まりがいいのではないかと考え、全体のバランス重視で作成しました。漢字のウロコ部分も加工しています。
もし、別の文字の並びであればこのような文字の加工はせずにそのまま使用したか、あるいは別の方法をとっていたかもしれません。そのときどきで伝達の方法を試行錯誤するようにしています。
その他にも、和文が筑紫書体で、欧文が別の書体というような混植をすることもあります。 作例でいうと、最近まで開催されていた展覧会のポスターや図録、Webデザインを一手に担当したものがそれにあたります。
この図録では、欧文のテキスト量が多かったので、和文と一緒に使っても美しく組める欧文書体を検討し、 その書体に合うように、和文書体は太いウエイトの「筑紫ゴシック」を使いました。
欧文の本文組みは、「筑紫ゴシック」に従属している欧文だけでは対応できません。そこで欧文フォントのファミリーと「筑紫ゴシック」のファミリーを組み合わせて、3種のウエイトの混植書体を作りました。「筑紫ゴシック」には、欧文フォント並のウエイト展開の豊富さがあったのでできたことだと思います。
リリースを心待ちにしていた書体
これは、2014年の新書体としてリリースされた「筑紫オールドゴシック」を使った展覧会のポスターです。
この展覧会は、地元の美術史を学ぶ大学生が、今日のインドネシアと日本の美術動向を紹介したもので、展覧会を通して来場者自身の「世界の在りか」を見つめるきっかけになれば...というものでした。
インドネシアの印象を学生達から聞き、ポスターやチラシのメインとして使うことになった作品画像を見た際、ちょうどリリースされる予定だった新書体の「筑紫オールドゴシック」の雰囲気が合うのではないかと思いつきました。
美術館や博物館のポスター掲示のタイミングとしては、会期の1ヶ月前からが一般的なんです。ポスターは、展覧会の名前やタイトルなど、掲載するテキストの分量が想像しやすいので可能だったのですが、このときは直前まで「筑紫オールドゴシック」を使った仕上がりをイメージしながら、他のゴシック体で作成を進めていたという状況でした。
届いた書体をすぐにインストールして、全てを「筑紫オールドゴシック」に置き換えたので、入稿直前までバタバタと作業をすることにはなりましたが「これにして良かった」というくらいピッタリはまった書体だと思います。絞ったふところや長く伸びたハライなどからは、新しい分野のゴシックというか、今までのゴシックにはなかった「表情」を持ったものを感じています。
最近では、明朝体やゴシック体を問わず「筑紫書体」を使って制作をすることがほとんどです。 筑紫書体は、魅力的な書体で、僕たちにとっては可能性に溢れた書体です。既存書体のウエイト展開はもちろんですが、これからも特長があるのだけれど目に馴染む、そういった基本的な書体をリリースしていただけたらと思っています。
<編集後記>
取材中にお見せいただいた作例の中に、実際のチョコレートを砕いてタイトルロゴを作ったバレンタインのポスターがありました。手作業が可能なところはパーツから作っていくことも多いと伺い、デザインに対するこだわりがさらに伝わってきました。
フォントワークスでは今後も、そのデザインのお力になれるよう、ニーズにあったフォントのリリースを考えていきたいと思います。
企業情報
社名 | カラマリ・インク |
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所在地 | 福岡市博多区奈良屋町11-15 |
TEL | 092-292-4875 |
FAX | 092-292-4875 |
URL | http://www.calamariinc.com/ |
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