尾道市立大学さまのご紹介
尾道市立大学 美術学科は画家やデザイナーなど、創作活動を行う人材の輩出を目的として教育している学科です。尾道市が目指す「活気あふれ感性息づく芸術文化のまち」の1つとして、専門家の育成と地域文化への貢献を目指されています。
表現者としての活動には、表現する意欲とそれを支える確かな造形力が必要と考え、一年次には専門分野にとらわれずに基礎実技を重視して、基本的な造形能力を養う実習を多く取り入れられています。
今回は、デザインコースの准教授 髙岡氏と学生の平井氏、喜來氏に、デザインにおけるフォントの重要さについてお話しを伺いました。
デザインにおける文字の大切さをきちんと知ってほしい
尾道市立大学では、1年次に日本画・油画・デザインの基礎を学び、その後に本格的に学んでいきたい履修コースを選択できるということが大きな特性として挙げられます。
私はデザインコースで、タイポグラフィやエディトリアルについての指導しています。文字の大切さをちゃんと知ってほしい、フォントについての知識をきちんと習得してほしいという考えから、フォントについては、専門家であるフォントメーカーから講義をいただくなど、普段から力を入れるようにしています。
精神論になってしまいますが、文字を扱うことって根性みたいなところが必要だと思うんです。 制作物全体の精度を上げようとすると時間との兼ね合いで、文字のことはどうしても後回しにしてしまう学生もいますし、その他のグラフィック要素との関係性からのジレンマもあったりします。文字が好きで制作しているという意識は重要ですし、こだわれる作業だと思っています。
そのため、今のうちから基礎となることを、興味を持ってもらった上で理解してもらいたいと思っています。デザインの要素として、欠かすことのできない文字。 尾道市立大学の学生がそれをどのように捉えているかを、私からの説明というより、学生を通してご紹介したいと思います。
平井くんがグラフィック、喜來さんがエディトリアルといった、文字の使い方については両極端な2人です。
どうしてそのデザインになったのかが重要
私はもともとデザインに興味があったことから、高校のときからデザインを専攻していました。高校の授業では、3年間通してレタリング検定といった文字に触れあう機会があったのですが、当時は今のように興味を持っていたという感じではありませんでした。
もちろん文字の仕組みといった知識はここで学んだのですが、大学でロゴを作る機会が増え、文字の表現方法を調べるうちに面白いなと思い始め、グラフィックデザインでも文字部分は注力していくようになったんです。
その延長として、欧文フォントの作成をしたり、和文についてもデザインの研究をしたりしています。 実際には自分で作字することが多く、既存フォントはあまり使う機会がないのですが、使いやすくてデザインが好きだなと思うものは、取り入れることもあります。主に、グラフィックデザインをしていることから、良い意味で“特徴のない”すっきりとしたフラットなデザインが使いやすいなと思っています。もちろん、このフォントデザインが、すべての媒体に共通することではないと思いますが、デザインの一部として見たときに、分け隔てなく老若男女に受け入れられるものではないかなと考えています。この点については、 自身で欧文フォントの作成をしたときにも、読ませる文字をつくるのにはこういったことも加味すべきなのだろうなと苦労することも多かったです。
新しく作った和文のデザインで、注目したのはこどもが書く文字についてです。
こどもが書く独特の形やリズム、面白さを再現してみようと考え、字を習いはじめたばかりの小学生からサンプリングして作っていくことにしました。“文字の一部が削がれていてもちゃんと読めるんだな”とか、“では、何故こうなるのかな”と考え、発見していきながら制作していきました。
手の力の未熟さや経験の少なさから作られる字ではありますが、小さなこどもなりに形を似せようとする思いが、人にきちんと伝わるようにタイプフェイスをデザインしている‘デザイナー’なのではないかと感じました。
どういった理由でそのデザインが作られたのか、どういったものを求められているのかといったことを考え、特徴やルールを掴むことで、デザイン要素の取り入れ方を検討していき、今後のデザインの糧にしていければと思っています。
紙でもフォントでも、こだわりをもって使いたい
私は、エディトリアルデザインにフォントワークスフォントをよく使用しています。文字に興味を持つようになったのは、“CI計画”といって、架空の企業設定をして、その企業のブランド等を作り上げていくとう授業がきっかけでした。
以前から本が好きだったこともあり、出版社と書店が併合したようなものを題材として設定し、企業ロゴや、商品である出版物など、一連の制作を行なうというものでした。制作しているうちに、文字が必要になる段階になり、どういったフォントで作り上げていこうかとわくわくしながら進めるようになったのが最初だと思います。
特に、エディトリアルデザインで、本文用に可読性の高い明朝体を使うことから、明朝体は特にこだわって使うようになりました。今では、よく使うものだと自然と明朝体を見分けられるくらいで、駅に貼ってあるポスターを見て、「あ!このフォントは…」といったような感じです。 こんな風にフォントに興味を持つようになったのは、筑紫Aオールド明朝のおかげなんですよ。
本文用によく縦組みで使用するのですが、線が細く華奢なイメージがありながらも、うろこがあるからか豪華な雰囲気があり本当にキレイだと思っています。ウエイトが「R」しかなかった頃から大好きで、ファミリー化されるのを心待ちにしていました。 もともと使用頻度は高かったのですが、髙岡先生の講義補助や、学校のパンフレット作成になど、さらに加速して使うようになりました。また、仮名のデザインが異なった特徴のあるフォント(筑紫Bオールド明朝/筑紫Cオールド明朝)もリリースされ、これからどういった場面で使っていこうかと楽しみです。
今回つくった作品では、できれば女性が好んで手に取ってくれるような、豪華で華美なイメージで全体を統一したいと考え、フォントは筑紫Aオールド明朝を使いました。ひらがなやカタカナに、もともと艶のあるフォントですが、今回は少しだけ加工をしてレトロな雰囲気をだせるように完成させました。このように、好きなものやステキだと思うものに自分なりの工夫を施し、デザイン表現していきたいと考えています。その表現にとって、フォントは大部分を占めているといってもいいくらいこだわりを持っています。
実は、母からちょっとしたチラシを作ってほしいと頼まれることがあり、学校での制作以外にも筑紫書体を使う機会は多いんです。何度か作っているので、感触を聞いてみることがあるのですが、やはり評判の良いフォントってあるようですね。筑紫A丸ゴシックを使った後は読みやすくて、親しみやすいという理由でフォントのリクエストが来るほどです。
自由な発想を表現できる1つのツールとして
〈髙岡氏〉2人は、デザインという同じ括りにいながらも、フォントに関しては平井くんのように“グラフィックスを主体と考えて、フォントや文字組みを調和させ、においを残さない”という考え、喜來さんのように“フォント自体から出るイメージを使って、用途にあったフォントを配置し、においを残す”という考えと、コンセプトの根本が異なっているようですね。
それぞれに、デザインの好みや制作媒体における課題が出てくるとは思いますが、私の若い頃とは違い、デザインにおける視点も新鮮だなと感じることが多々ありますので、今後学んだことをどう使っていってくれるかわくわくします。そういった意味でも、いろんなフォントが使えるシステムは、自由な発想を表現できる1つのツールとして有用ですよね。
実際に、学生からはもっと筑紫書体を使える環境を増やしてしてほしいと要望が増えています。今回のような「筑紫明朝」の制作経緯や、新たなフォントについての考えを伺う機会をいただき、ありがとうございました。
フォントのデザインで見え方が異なることを改めて実感することができたのではないでしょうか。 今回の講演は、学生への良い刺激になったと思います。ここから羽ばたいていく学生の将来が本当に愉しみです!
<編集後記>
尾道市立大学が運営されている美術館や個展にて、学生さんの作品を拝見させていただきました。掲載させていただいた作品はもとより、ご紹介できなかった学生さんの作品にも、学んだ基礎知識が活かされているんだろうなと感じるハイセンスなものでした。そのより良い環境作りのためにも、「学生向けLETS」のような教育支援の一助となるサービスを考えていきたいと思います。
企業情報
学校名 | 尾道市立大学 |
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所在地 | 広島県尾道市久山田町1600番地2 |
URL | http://www.onomichi-u.ac.jp/ |
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