楷書体「ニューグレコ」 毅然としつつも優しい仮名デザイン

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「ニューグレコ」は楷書体「グレコ」をベースに、新たにJIS2004に対応。 漢字は、「草かんむり」と「糸へん」を、日本でなじみのある現代的な字形に変更しています。さらに、漢字に合わせ、新しい「仮名」を制作しました。 すっきりとした筆づかいの漢字に合うよう、自然な筆の流れを意識した「仮名」デザインです。 毅然としつつも優しい雰囲気を持ち、文章を組んだ時に力強さも繊細さも表現できます。

「ニューグレコ」の書体デザインを担当、入社5年目の書体デザイナー山村佳苗に、「ニューグレコ」の書体のコンセプトや特徴など本書体誕生の秘話と山村の入社から今までに至るまでの書体デザイナーとしての道のりをインタビューしました。





書体デザイナーとしての道のり

今年の春で入社5年目を迎えました。入社する前の1年間は、アルバイトという形で研修を受けていましたので、実質6年目となります。

私は、6歳の頃から書道を続けていました。大学生になってからは、学部の授業で学んだり、サークル活動でチラシを作ったりするうちにフォントに興味を持つようになり、そこからフォントを作る仕事をしたいと考えるようになって、当時の担当教官に相談をしました。

すると、担当教官が中心となって進めていたフォントワークスとの共同研究の会議に出席させてもらえることになり、その流れでフォントワークスに訪問して藤田の話を聞くという機会を得ました。そこで、「面接を受けさせてください」と直談判。当時、採用募集もなかったことから、「課題を出すから、それをみて良かったら面接をしよう」となりました。



大学では、卒業制作として筆のフォント制作を行いました。そのあと、大学院に入っても、フォントの制作を続けていました。王羲之(おうぎし)の作品から漢字をフォント化し、さらに日本語の書体として仮名を作るということをやっていました。当時はIllustratorで制作していました。

課題で提出した、上から細楷書、太楷書、行書
課題用に練習。鉛筆でアウトラインを書いて、中を塗りました。

このときの課題というのが、「愛のあるユニークで豊かな書体」という一つの文章を細楷書・太楷書・行書でデザインするというものでした。

意気込んで課題に取り掛かったのですが、今まで筆で書くことばかりで、マスに一文字ずつ作る、鉛筆で骨格を書くといった経験がなかったため、かなり悩みました。約1ヶ月後、3つ分仕上げて提出。不安しかなかったのですが、なんとかクリアし、面接をしてもらうことになりました。

この時、なぜこの課題が出されたのか、後々聞いたのですが、私がずっと書道をしていたことと、当時「グレコ」の仮名をリデザインする計画がタイミングよく出ていたから、だったそうです。そのため、入社後「ニューグレコ」の仮名制作を担当することになりました。

実制作へ。既存の漢字にタッチを合わせた仮名づくり

内定をもらった後、入社までの1年間はアルバイトをすることになりました。レタリングなどの研修の後、早速「ニューグレコ」の仮名を制作する作業に取り掛かりました。

まずは、ウエイトMのひらがなを短い文章で作るということをしました。とてもじゃないですが、1文字ずつの制作では、全く感覚がつかめず、短文の方が雰囲気がつかめて作りやすいのです。

 

実際にえんぴつや筆ペンで書いて、写真に撮り、フォント制作ソフトの下のレイヤーに敷いて、文字のパスを引きます。それをベースに何文字かできたら、それに合わせ残りのひらがなを制作。ひらがなが一通りできてからも修正を繰り返しました。
スキャンして、パスを減らして滑らかにする方法もあるけど、それでは勉強にならないからと、あえて、この方法でやり続けました。

 

ですが、やれどもやれども藤田のOKが出なくて全く進まないという状態が続きました。
筆では書けるのに、実際にパスを引こうとすると再現がうまくいかず、そんな状況で先が見えなかったです。


2015年4月1日に入社し、入社後も継続して、「ニューグレコ」の制作を続けました。

7月ごろまでに、3ウエイトのすべての仮名の制作&修正作業を一旦終え、フォント化する作業に入り、一旦はフォントデータとして完成しました。

ひらがなの変遷
作業に入って最初に作った文字

別バージョンの「仮名」を制作してみることに

ここで、他の作業が入ってきたりして、2年ほど期間があいて、制作を再開。制作した仮名は一旦置いておいて、まったく違うバージョンの仮名を制作してみることになりました。

グレコは、他社の楷書体に比べて漢字がキリッとしていてバランスもよくかっこいい書体です。他社の書体も参考にしましたが、色んな資料を集めた中で、一番参考にしたのは明治〜昭和初期の小学生の教科書でした。当時は筆で書かれているものが多く、同じ字でも色んな形を見つけることができました。

さらに、他リリース用書体の制作が入りつつも、リリースの日程が翌年に決まったことで、リリースに向けて最終的な制作に入りました。結果的に、最後に作った方の仮名の採用が決まりました。

3ウエイトすべての仮名制作完了、2019年6月に漢字、記号、文字詰め設定を含めた全てのデータ制作が完了しました。

参考資料1:資料から集めたり、自分で書いてみた文字。それぞれの字につき何文字も作ってみているが、 特に多いのは 「メ」や 「ひ」、 「う」など。 画数が少ないものほどバランスをとるのがむずかしい。
参考資料2:明治〜昭和初期の小学生の教科書

既にある漢字に新しい「仮名」を組み合わせる難しさ

グレコの漢字は、楷書ではあるけれど、一般的な楷書より筆っぽさが少なく機械的なデザインです。そういう漢字に合う仮名にしなければならないのですが、どうしても筆くさく暴れたようなデザインにしてしまい、それは自分の書体を作るときにしなさいと藤田に言われました。
制約がある中で、いかに良いものを作れるかということはとても難しいと感じました。

リリースまでに5年という歳月がかかりましたが、自分の手がけた書体がリリースされるということは本当に嬉しいですし、たくさんの方に使っていただければと思っています!

苦労した点:今回のように既にある書体に新しいデザインの書体を組み合わせる場合には、適合性が求められるが、独創性が強すぎてNGに。
作っていて「楽しい」と思いながら作ることができたものはOKが出やすかったです。 特に、「る」ですね。 「る」は自分でも気に入っていて、藤田からも「これはシュッとしてていいじゃん」と早々にOKが出ました。

書体デザイナー 山村佳苗のご紹介

1991年福岡県生まれ。
九州大学大学院芸術工学府芸術工学専攻 修士課程修了。
2015年フォントワークス株式会社入社。

「ニューグレコ」の仮名制作を担当。
6歳の頃から書道を続け、大学時代にフォントへの興味が高まり、書体デザイナーの道を志す。

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