ゲヒルン×ホリカフーズ 「安全性とデザイン性を両立させる書体の使い方」

Interview

ゲヒルン株式会社の『特務機関NERV防災アプリ』内のサポーター会員さま向けコンテンツに弊社の「マティス EB」をご採用いただき、そして、ホリカフーズ株式会社の『特務機関NERV指定 防災糧食』のパッケージデザインをゲヒルンさんが行い、「マティス EB」、「UD角ゴ_ラージ DB」「同 M」、「UD角ゴ_コンデンス80 M」「同 R」をご採用いただきました。

今回は、ゲヒルン株式会社の代表取締役 石森さん、専務取締役 糠谷さん、アプリや防災糧食のパッケージデザインなど社内のクリエイティブ全般を担当している技術開発部 制作局の櫻木さん。そして、防災糧食の企画に携われたホリカフーズ株式会社 営業部の井口さんに、2社合同オンラインインタビューを行い、開発背景などをお聞きしました。

ゲヒルン(株)特務機関NERVアプリより
ホリカフーズ(株)特務機関NERV指定 防災糧食

現実世界とアニメの世界で書体の使い分け

ーーまずはゲヒルンさんにお聞きします。防災アプリとして高い支持がある『特務機関NERV防災アプリ』の開発経緯をお聞かせください。

ゲヒルン株式会社 代表取締役 石森 大貴さん

石森さん:
3.11の東日本大震災以来運用していた「Twitterアカウント@UN_NERVの情報を、より細分化・最適化して通知することができたら良いなという意見は社内でも上がってはいました。でも、僕たちが防災アプリを出すまでもなく、既に他社さんが様々なアプリやサービスを提供されています。

今さら新規参入する理由があるだろうかという葛藤もあったのですが、2018年末にエヴァ関係者の忘年会に誘っていただいたとき、アプリ開発の話をしたところ「NERVの名前を使っていいよ」と許諾をいただいたんです。NERVの名前を背負うからには中途半端なものは出せないと思い、本格的に開発をスタートさせました。

ーー今回、新たにサポーター会員さま向けのコンテンツに、マティス EBをご導入頂いた決め手についてお聞かせください

石森さん:アニメ『エヴァンゲリオン』シリーズの作中に出てくる「特務機関NERV」という組織になぞらえてTwitterアカウントを運用している経緯もあるので、エヴァンゲリオンの世界観をそのままコンテンツとして反映する、という手法はこれまでにも繰り返し行ってきたことではありました。

ただ、『特務機関NERV防災アプリ』では、エヴァの世界観をそのまま再現すると、どうしても防災情報としては見やすさに欠けてしまうため、「マティス EB」の使用は控えていました。

一方でサポーター会員の皆さんはエヴァンゲリオンが好きでアプリを使ってくださる方も多いので、このサポーターズクラブのクレジットボードでは、ユーザーの皆さんに対する感謝の気持ちをお伝えしたいということもあり、満を持して「マティス EB」を採用しました。

サポーターズコンテンツ イメージ画像

ーーありがとうございます。エヴァンゲリオンの世界観が表現されていて圧倒されました!「マティス EB」を存分に使っていただき非常に嬉しいです。会員さまや御社内での反応などはいかがでしたか?

石森さん:ユーザーの皆さんはすごく楽しんで、自分の名前を探してくださったみたいです。「自分の名前があった!」とか、「なかなか見つけられない」といったコメントも書かれていて、ユーザー同士で探し合っている様子なども見られました。

ゲヒルン株式会社 専務取締役 糠谷 崇志さん

糠谷さん:社内では作る前から、「これは絶対カッコ良くなるよね」と話していて。出来上がってくると、それがやっぱり思った通り、カッコ良く、そして想像以上にアート感が出ました。また、多くの皆さまがサポーターズクラブに会員登録していただいたからこそ、カッコ良くできたと思っています。最初は僕たち10人ぐらいだったらどうしようっていう不安はあったのですが(笑)今では、2,400名以上の方がサポーター会員になっていただいて、あのような形で出せています。

石森さん:寄付を集めて支援してもらう、いわゆるファンクラブのような形式は、音楽業界などでよく使われるものだと思います。しかし支援してくださった方々のお名前を掲載するというのはなかなか無いと思います。しかも「マティスEB」のフォントでお名前をランダムに並べて、それだけでアート感が出てくるというのは、やはりエヴァンゲリオンというバックグラウンドと、フォントの持つ力によるものだと思います。

サポーターズコンテンツ イメージ画像

食品の安全性とデザインの両立

ーー続いて、ホリカフーズの井口さんにお聞きします。「特務機関NERVから第3新東京市民に配られる配給食」というコンセプトで生まれた『特務機関NERV指定 防災糧食』ですが、今回のコラボレーションはなぜ実現したのでしょうか?


ホリカフーズ株式会社 営業部営業課 井口 学さん

井口さん:当社が、宮城県仙台市で開催された防災フォーラムに出展した際に、石森さんと私が意気投合したのがきっかけです。当時石森さんは災害食に関してコラボレーションが可能なパートナーを探していました。もともとレスキューフーズの利用者でもあり、品質に信頼を寄せてくださっていたこともあり、とんとん拍子に企画が進んでいきました。

ーーパッケージイメージ案など何かご指示やご要望はあったのでしょうか?

井口さん:当社からは特にこれといった指示や要望などはなく、一切をお任せしていました。ただ、概ねデザインが出来上がった頃ぐらいからは、法律上遵守しなければならない表記などについてアドバイスさせていただくなど、品質管理の面でチェックさせていただきました。

ーー『防災糧食』のパッケージはフォントが中心のシンプルなデザインでありながらもエヴァンゲリオンの世界観が伝わってきます。ゲヒルンさんが今回パッケージデザインをする上で、書体を中心としたデザインとなった経緯や課題などあればお聞かせください。

ゲヒルン株式会社 技術開発部 制作局 櫻木 ハンナさん

櫻木さん:食品パッケージといえば調理例などの写真が用いられるケースがほとんどだと思います。ホリカフーズさんが販売されているレスキューフーズも出来上がりの写真が掲載されたパッケージになっているため、踏襲する必要があるのではないかと思案したフェーズもありました。ただ、今回のコンセプトが「特務機関NERVから第3新東京市民に配られる配給食」であったことから、現実世界でいえば自衛隊が常備している携行食のようなものだと考えるに至りました。

櫻木さん:また同時にユニバーサルデザインへの配慮は絶対条件でした。食品であり、そして、いざというときに備えた備蓄品という性質から、日本人・外国人を問わず様々な人にとっての「読みやすさ」を考慮する必要がありました。レスキューフーズの使い方やアレルギー表示などの英文表記、カラーバリアフリーや数字の連番による識別方法など、誰にでも「何の食事か」が分かるよう工夫しながらデザイン制作を進め、その中で次第に書体を中心とした構成となっていきました。

ーー防災糧食のパッケージに「マティス EB」「UDフォント」導入を考えた背景を教えてください

櫻木さん:「マティス EB」についてはアニメ『エヴァンゲリオン』シリーズの代名詞と言っても過言ではないフォントですので、絶対に外せないというか、当たり前に配置したものでした。
ただ全部に使うとインパクトが強すぎます。アレルギー表示など人の生命や健康に関わる情報ということもあり、そこは視認性を最優先すると決めていたので、「UD角ゴフォント」を採用しました。

石森さん:万人に優しい、読みやすいフォント(ユニバーサルデザイン)を検討する中で、自然とUDフォントが候補に上がりました。UDフォントと言っても様々ですが、僕が「ニューロダン」が好きで。「ニューロダン」の雰囲気を踏襲している「UD角ゴ」に思い当たった、という経緯があります。

「ニューロダン」はテレビのテロップや駅のサイネージ、広告など広く利用されていて認知度も高く、その公共性の高さから「行政っぽい」イメージがあります。つまりそういった我々の中で硬派なイメージが、今回制作した防災糧食の「特務機関NERVから第3新東京市民に配られる配給食」という設定にピッタリだというところから、採用を検討するきっかけとなりました。

万が一の災害時でも力になれるように

ーー実際に製品のデザインについて、社内外の評判はいかがでしたか?


櫻木さん:嬉しかったのは、ホリカフーズさんからお褒めの言葉をいただいたことです。食品のプロからお墨付きをいただけたことは大変有り難く思うと同時に、自信にもなりました。

Twitterでの反応を見ていても、概ね好意的に受け取ってくださっているようでほっとしています。意外とお値段の張る5食入パック(Nカートン)を購入されている方たちも多いのですが、エヴァファンとしては共感の念を禁じえません。

井口さん:エヴァンゲリオンというワードを聞くと、どうしてもキャラクターが前に出てきやすいのかと思うのですが、今回の製品は、作中に出てきても全く違和感がないデザインだと思います。実際に、手に取って下さった方々からも、「エヴァの本格的な世界観を体現していてすごい」ですとか、「もし災害時にこれをもらえたら力になる」というお言葉もいただきました。
素晴らしいデザインをしていただけたと、私自身も、会社としても、思っておりますし、また嬉しいことに、これまでお取引がなかった、映画館での販売が決まったりと大変ご好評をいただいております。

糠谷さん:この製品を商談でお客さまのところへ持って行った際に、エヴァンゲリオンをご存じない方にも、すごくいいと言っていただきました。
やはり、あえてキャラクターを載せずに、製品として文字の見やすさだったり、デザインがカッコ良いというところで評価いただいているのはとても嬉しいですね。

特務機関NERV指定 防災糧食

インターネット上の公共放送を目指したい

ーー最後に、ゲヒルンさんとホリカフーズさんの「未来予想図」を教えてください。


石森さん:防災事業に関しては「防災情報発信の更なる強化に取り組む」という点に尽きます。同時に「情報を分かりやすく表現する」ことも忘れてはなりません。特務機関NERVという名前をお借りしている以上、アニメ『エヴァンゲリオン』シリーズの世界観はこれからも大事にしつつ、更なるユーザビリティの追求に努めていきます。とはいえ、他のアニメからインスピレーションを得てデザインすることもありますし、ユーザビリティの観点から、エヴァの世界観とは少し異なる表現をすることもあります。

特務機関NERVは、「国連直属の非公開組織」という設定ですが、私たちが防災情報を配信する上では公共放送であるNHKさんを意識しています。色んな人にやさしい情報の作り方を研究している機関でもあるので、バリアフリーの考え方やシステム構築のあり方、公共性の考え方というものを特に参考にしています。「インターネット上のNHKを目指す」という気持ちで、防災情報配信を続けていきたいと考えています。

井口さん:当社事業の柱である、災害食分野、治療・介護食分野において継続的な事業の発展、拡大、オンリーワンを目指していきます。更に、今後は海外事業にも積極的に取り組んでまいります。災害食、治療・介護食、どの現場でも、見やすくて扱いやすい、そういったものをこれからもより真剣に考え、実際に使われる方が本当に使いやすいもの、いい製品と言ってもらえるものをこれからも作り続けていきます。

また、使われないことが本当はいいのですが、有事の際には、弊社の製品が、災害食として皆さんにしっかりと行き届くようなシステムを整えていけたらと思っています。


インタビューを進めていく中で、皆さんのフォントとの出会いをお聞きしました。

ホリカフーズの井口さんは、今回の防災糧食のコラボレーションで、UDフォントなど誰もがわかりやすい文字の重要性を知っていただいたようでした。
UDフォントはこれからもますます注目されるカテゴリーです。私たちもフォントメーカーとして、注力していきたいと思います。

ゲヒルンの皆さまは...石森さんは、なんと幼稚園の頃にはワープロを触り、小学3年生でパソコンを操り、中学生のときには勝手に「学級新聞」を発行して、テーマに合わせてフォントを選んでいたそう。糠谷さんは、中学生でホームページ制作をしたり、櫻木さんは、幼少時から書道をしたりと、文字への造詣の深さを感じることができました。
また、石森さんは、次の世代に芸術を継承できるような活動も考えていらっしゃるとか。

みなさまの今後の活動でもフォントメーカーとしてお役に立てることがあれば幸いです。

ゲヒルン株式会社:Gehirn(ゲヒルン)はドイツ語で「頭脳」。「安全保障(Security)」を軸に『情報セキュリティ』『インフラストラクチャ』『防災』の3つの分野で、日々研究開発を行っている。https://www.gehirn.co.jp/
ホリカフーズ株式会社:1955年の創業以来、様々な食シーンに寄り添う製品づくりに取り組み、食を通したさまざまな価値を社会へ提案。新たな技術開発及び市場開拓を積極的に進め、独自の食の開発型メーカー。介護食・治療食、災害食・非常食、無菌包装米飯、業務用大型缶詰などの多岐にわたる製品をラインナップしている。http://www.foricafoods.co.jp/

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