英語を始めとする多言語の組版には、私たちが普段接している日本語組版とは違った言語上の規則や注意点があります。「英語タイポグラフィ講座」初級編の3回目は、英文表記でありがちな間違いポイントのうち、日本語を使う私たちにはちょっとなじみのない「冠詞」についてです。
イラスト/原案:Joachim Müller-Lancé
協力:アドビ社
これはaでいい?それともthe?
「a」「an」「the」などの冠詞は、用法を間違えてしまっている例をよく見かけます。前後の単語によっても、そして文章で表したい意味によっても変わるので注意が必要です。
特定のものを指さない場合は「a」を使おう
「a」や「an」は、不定冠詞と呼ばれ、名詞が不特定である場合に使います。この冠詞に続く単語の頭文字によって、使い分けます。
「a e i o u」の母音の前は「an」になり、それ以外は「a」を使います。
※ただし、「あ」または「う」のように発音される母音「u」の前は「an」ですが、「ゆ」のように発音される母音「u」の前では「a」を使用。
例)an upload
a university
「a」「an」といった不定冠詞は、不特定な情報やグループや分野の中の特定のメンバーを表す時などに使います。
初めて出される情報
例)Would you like a drink?
「何か飲む?」という呼びかけは、数ある飲み物の中の「これ」と特定していないので、「a」を使います。
グループの1つ、もしくはグループの中のメンバー(1人であること)を指すとき
例:I want to be a doctor in the future.
「将来、医者になりたい!」という場合は、「世の中にいる医者のうちの1人」になりたいということなので「 a 」を使います。
特定の日ではない曜日を指すとき
例:Could I come over on a Saturday?
これも「決まった土曜」ではなく、「どこかの土曜」と特定されていないので「a」を使います。
特定のものを指す場合は「the」を使おう
そして、「the」は、定冠詞と呼ばれます。特定された名詞の前につけるものになりますが、名詞が「話し手や聞き手の中で共通認識を持っているもの」や「決まりきっていること」などの場面で使います。
特定されているとき
例:The school in the nearby town seems good.
「街の近くのその学校」と特定しているので、「the」を使います。
話し手や聞き手の中で共通認識を持っているもの
例:I finally went to the park yesterday.
話し手と聞き手の間で、「やっとあの公園にいったよ」とどこの公園かが特定できているので、「the」を使います。
決まりきっていること
例:The sun is shining everyday.
太陽は世界に1つしかないので特定できます。そのような場合には「the」を使います。
aとtheの違いを見分けるポイントは、特定のものかどうか?でした。では、最初にお見せした「最後尾」の看板は「End of a line」と「End of the line」どちらかわかりましたか?
そう、正解は「the」の方ですね。
「この」列の最後に並んでくださいと列を特定しているので、「the」を使います。
誤:End of a line
正:End of the line
冠詞がつかない、2つのケース
そしてもう一つ注意したいのが、単数形と複数形で語末が違う例です。
次は道に立てられた、観光案内所の場所を示す案内板です。「A Tourist」と名詞の前に不定冠詞をつけていますが、見出し、標識、ラベル、メモなど、簡潔さが重宝される場面では、冠詞などを付けないというルールがあるのです。
誤:A Tourist Information Center
正:Tourist Information Center
そして、人生、平和、天国などの抽象的な概念については、「a」「an」「the」などの冠詞は付きませんので、こちらも覚えておきましょう!
Life is beautiful.
Peace is difficult to achieve.
This vacation is like heaven.
案内が使われるシーンを想定して、正しい翻訳を!
なじみがない分、目が行き届きにくくなる冠詞。まず正確な翻訳を行うために、その案内が示すものや置かれる場所・シチュエーションを想定しておくといいでしょう。
次回はいよいよ中級編に進みます!