【テレビ朝日】報道番組のデザインを統一し、ブランディング強化に取り組むために開発した「テレ朝UD」

Interview

テレビ朝日が報道番組において長年取り組んできたテロップの知見と強いこだわりをもとに、フォントワークスの書体デザインチームと共同で開発したオリジナルフォント「テレ朝UD」。テレビだけでなく、スマートフォンやタブレットといった視聴環境の多様化が進む「いま」の空気を反映し、さまざまな媒体でテレビ番組を楽しむ視聴者の方々に向けたフォントが実現しました。

フォントワークスの「UD角ゴ_ラージ」をベースに、テレビ朝日のコーポレートデザインセンターの方々がデザインしたプロトタイプから、フォントワークスのチームがフォントデータを作成。われわれが普段取り組んでいる紙媒体やゲームで使用される書体の開発とは異なる、テレビ番組ならではの視認性向上を目指したオリジナルフォントに仕上がっています。

今回は、テレビ朝日の技術局コーポレートデザインセンターのアートディレクター 福田隆之さん、原田甫さん、大松浩一郎さんに、同フォントの制作プロセスについてうかがいました。

(左から)テレビ朝日の技術局コーポレートデザインセンター大松さん
アートディレクター 福田さん、原田さん

報道局全体で取り組んだ番組デザインの統一

-まずはみなさんのご経歴と現在のお仕事について教えてください。

福田さん:1996年にCGデザイナーとして入社し、4年ほど「美術さん」としてガムテープ持ってスタジオを走り回っていました。その後、さまざまな番組のタイトルデザインやポスターのほか、新聞の表札といった広告、イベント関連の制作物などを手がけるグラフィックデザインを担当し、現在は「コーポレートデザインセンター」で報道番組全体のデザインを管理する立場にあります。

原田さん:2009年に入社し、生放送で使用されるテロップシステムの開発・運用業務に5年間携わりました。2014年からは報道情報番組のデザインの仕事にシフトして、現在にいたります。

大松さん: 1998年に入社し情報システム部門にて10年ほど務めました。報道部署を経てコーポレートデザインセンターに異動した後、テロップやフリップに表示されるニュースCGの制作を10年以上担当し、現在はマネージャーも務めています。

-2022年より弊社と共同で開発させていただいている「テレ朝日UD」プロジェクトのはじまりについてお話しいただけますか?

原田さん:当初からオリジナルフォントをつくろうと考えていたわけではなく、もともとはテレビ朝日の報道情報番組で共通のフォントを使用し、しっかりとブランディングをしていこうという流れが社内で起きたことがきっかけだったんです。どんなフォントで統一するのがいいのかを検討していくなかで、フォントワークスさんとお話させていただく機会があり、「UD角ゴ_ラージ」をベースとしたオリジナルフォントを制作することになりました。

大松さん:2022年4月にフォントを選びはじめて、27種類のフォントに対してみんなが評価を付け、その中でのトップがUD角ゴだったんです。その後7月に、フォントワークスさんに相談させていただいてから「テレ朝UD」の制作をスタートして、10月から番組での使用を開始し、今年の1月からは系列局でも使いはじめているので、かなりの急ピッチで作業を進めていただきました。

大松さん

福田さん:このスケジュール感でオリジナルフォントをつくれるなんて思っていなかったですね。検討の際には、各社のさまざまなフォントが候補に上がっていましたが、UD角ゴはベースとなるつくりがしっかりしていて、漢字全体の視認性が高く、見ていてストレスがなかったんです。ひらがなとカタカナ、数字で特徴を出したいと考えていたので、調整させていただいたことでうまく「らしさ」が出せたかなと思います。


-これまでは各番組でどのようにフォントを選定されていたのでしょうか?

原田さん:報道番組で表示される文字は当時本当にさまざまで、基本のフォントは「ロダン」 「ニューロダン」 「UD角ゴ」といった角ゴシック体を定めている場合が多かったのですが、 ディレクターが現場の感覚で選択する演出的なテロップでは、「スーラ」 などの丸ゴシック系や、「スランプ」 といったポップな書体が使われていることもありました。

福田さん:年間で契約させていただいている「LETS」内のフォントを、各番組のディレクターが自由に使っている状況でした。テレビ局としてきちんとデザイン設計をやりましょうという動きがはじまってからは、バラバラだった書体やテロップなどのレイアウトを、報道番組で共通性も持たせるという課題に、コーポレートデザインセンターとして取り組むことになりました。
結果的に、すべての番組の色使いをはじめ、使用フォント、装飾の種類、画面内のレイアウトを設計し、マニュアルに落とし込みました。画面の中の情報順位が無意識に理解出来る設計に変わり、視聴者の視認性、情報の理解度が向上したはずです。

(左)福田さん (右)原田さん

-テレ朝UDの導入とデザインを統一するにあたって、社内の方々への周知はどのように取り組まれたのでしょうか?

福田さん:これまでは大々的な仕切りをしていなかったので、御用聞きの立場から統制する側の立場への切替えには、なかなかの勇気が要りました。自由にやってきたディレクターたちを縛ることにはなったので反発もありましたが、同時に、若いディレクターを中心に、以前よりやりやすくなったという意見をもらっています。

テレ朝UDの導入前には、義務教育ではやっていないデザインについて理解を深めるため、報道局全体のべ500名へ向けて色使いの設計やフォントの選び方についての説明会を実施しました。
そこではまず、アートとデザインは全然違うものですという話からはじめました。アートは個人表現の具現化であり、デザインは情報を伝えるための具現化ということを説明しました。色使いも、きちんと計算すれば正解があることを伝え、画面の中で表示される要素のプライオリティを整理してもらうようにお願いしました。
やはりきちんと意識が伝わらないとすべてをパッケージすることはできないので、こういった説明の機会があってこその統一だったと思います。ディレクターのみなさんは普段から学ぶ姿勢がある人ばかりなので、しっかり理解してもらえたことでうまくいったんだと感じますね。

テレビ番組での視認性の高さを目指した書体設計

-テレ朝UDの開発にあたり、弊社の書体デザインチームからは、視認性と可読性 にとてもこだわられていたと聞きました。オリジナルフォントを制作する上でのポイントはどのようなところでしたか?

原田さん:通常のフォントづくりとは、まったく違う考え方だと思いますね。たとえば数字の場合、テロップで使用する際に他の文字よりも一際目立ってほしい大事な情報を伝える役割があるので、通常よりも天地は大きく、ウェイトは1段階ぐらい太いんです。フラットに見た時の馴染みのよさよりも、特徴が強く出ていることがポイントでした。
SNSで「ちょっと太い」「大きい」といった意見があり、まさに狙っていたことがうまくいっているなと感じています。

福田さん:われわれとしては放送画面の視認性を上げることが目標なので、書体としてバランスが取れている文字ばかりが正解ではないと思います。大きさや太さの均一感よりも、テレビの画面で見やすく、テレビ朝日が使っている数字として視聴者の印象に残るものを採用しています。


-弊社のデザインチームとしても、DTPといった紙の上に載る文字やゲーム内のフォントをデザインする経験はありますが、テレビ番組の文字のデザインは初めてだったので、さまざまなことを学ばせていただいた制作プロセスでした。

福田さん:われわれにはテレビ番組というアウトプットがあるので、テロップシステムの運用についても考える必要があるんですね。数字のほかにも、テレビの画面は縦横でピクセル数が決まっているため、文字の幅には気をつかいました。UD角ゴだと「O」と「Q」 のサークルは正円に近いですが、少し横に縮ませてもらうことで画面での収まりをよくしています。テロップでは省略できない地名などの単語も出てくるため、できるだけ縮めた設計にしています。

「いま」を映し出す、テレビ朝日らしさを表すフォント

-開発プロセスを振り返ってみていかがですか?

福田さん:今回はありがたいことに上意下達の号令があったことでうまく進めたのかなと思います。デザイナーとしてはようやく納得のいく仕事ができたなっていう感じがしますね。世の中にこれだけデザインされたものがある一方で、テレビだけがいまだに昭和な感じがするのは、画面内のフォントや色使いが少なからず影響しているのではないかと思います。
われわれも「いま」を伝えるメディアとして生き残っていかないといけないので、もっとデザインをしっかりやっていきたいと考えています。

原田さん:ぱっとみただけでテレビ朝日の番組だと感じていただけるようになるには、すべての番組で様々な要素を統一する必要があるのでなかなかむずかしいですが、報道番組のフォントをすべて同じにできたこととはかなり大きいと思います。テレビ朝日らしさというイメージが生まれる一つの大きな要素になるのかなと。

(左)原田さん (右)技術局 コーポレートデザインセンター センター長 島田 了一さん

-オリジナルフォント開発では「らしさ」がキーワードとしてありますが、テレ朝日UDらしさとはどのようなところでしょう。

福田さん:「いま」ですね。角丸系のディティールにしたのは、スマートフォンやブラウザーの画面内で使用されていることが多く、さまざまな手触りの文字が存在する生活の中で、テレビ番組もその仲間に入れていただきやすいように選んだという理由もあります。視聴者サービスという考え方がベースにあるので、世の中の空気感をしっかり察知しながら、時代にあったものを常にアップデートしていくことが、これからの僕らの仕事かなと思います。


-まさに現在もアップデート作業は続いています。「いま」の空気感は、たとえば5年後には変わってくるかもしれないですし、その時にはフォントも変化している可能性もありますね。

福田さん:これまでの書体は、一度つくられたらアップデートすることなかったと思うんですが、いまは世の中のサービスのほとんどが少しずつ改修加えてアップデートしているので、続けていくためには必要な要素だと思います。いまでも隙間時間を見つけては(テレ朝UDを)ちょこちょこと調整しています。


-最後に、さまざまな視聴環境に合わせた番組づくりに向き合われている中で、テレ朝UDの開発をきっかけに今後も取り組まれることがあればお聞かせください。

センター長 島田さん: こうして一気通貫で全番組を揃えていくことは、いままでにはなかった初めての試みですし、会社としてこのような決断をした理由には時代の変化がありました。10年前は、テレビ番組はほぼテレビだけのものでしたが、インターネットでも見られるようになったことで、同じテレビ局のなかで、それぞれが自分の番組のデザインだけに気を使っている場合じゃないんじゃないかと考えるようになったんです。今後は、番組映像が地上波だけでなく様々な配信プラットフォームで活用されている状況を踏まえ、まだまだやらなくてはいけないと感じていることを進めていきたいと考えています。

取材日:2023年2月6日






テレビ朝日

福田隆之(ふくだ・たかゆき)さん
デザイン・アートディレクター。報道番組全体デザイン統括。「グッド!モーニング」「サタデー・サンデーSTATION」「ワイド!スクランブル」担当

原田甫(はらだ・はじめ)さん
デザイン・アートディレクター。「報道ステーション」「Jチャンネル」「モーニングショー」担当

大松浩一郎(おおまつ・こういちろう)さん
テロップ開発・運用マネージャー。基幹系システム開発・管理部門から報道記者を経て現職。

コーポレートデザインセンター:2011年に「美術制作センター」から改名。インハウスのデザイン部門として番組だけではなく、より広い範囲でテレビ朝日の手掛けるビジネスのデザインとブランディングに携わる。デザインだけでなく先端テクノロジー分野にも取り組み、VRスタジオやVFX、各種CGシステム開発も手掛けている。独自開発設計による「ANTS(Advanced Network Telop System)」では、オンラインによるテロップ発注ワークフローを開発・構築、テレビ局の中ではいち早く、紙発注からオンライン発注へ切り替えた実績を持つ。

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